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先週の書き出しも同じでしたが、なんだかあったかいんだか寒いんだかわからない日がつづいています。
今年は少し桜が長い気がします。開花してからも寒い日がつづいたりしたからかな?
春って、冬が明けて気候も良い季節で、きれいな桜も咲くし、これから初夏に向かうワクワク感があります。それなのに、なぜか春を歌った曲って切ない曲が多いんですよね。
- 春なのに ため息また一つ(春なのに/柏原芳恵)
- さくら さくら 今咲き誇る 刹那に散りゆくさだめと知って(さくら/森山直太朗)
- さくら舞い散る中に忘れた記憶と君の声が戻ってくる 吹きやまない春の風 あのころのままで(さくら/ケツメイシ)
- 襟裳(えりも)の春は なにもない春です(襟裳岬/森進一)
やっぱりさくらって儚さの象徴なのかな。だから春の曲ってちょっと切ない曲が多いのかな?
出会いの季節でもあるけど別れの季節でもあることも関係しますよね。人間は不快に万倍敏感ですから、出会いよりも別れのほうがつらくてそちらのほうにフォーカスしてしまうのでしょうか。
春の曲で明るい曲って、キャンディーズの春一番くらいですかね。
- もうすぐ春ですね 恋をしてみませんか
なんでさっきから古い曲ばかりでてくるのかわかりませんが、キャンディーズの春一番は当然ながら私もリアルタイムではありません。なんならこの曲が出た1976年に生まれていますからワタクシ。
というわけで、そんな春のポカポカ陽気の中、先日千葉まで電車で1時間20分かけてラーメンを食べに行ってきました。昼時だったんですけどね。ラーメンを食べるためだけに往復2時間40分(汗)。
そんなうまいラーメン屋なのか、という話ですが、実はうまいラーメン屋だから行ったんじゃないんですね。このコラムのネタ探しのために行ってきました。
今日は、過去にお伝えした内容も交えながらのブランディングのお話。
コ□ナ以降、偏向報道だらけの大手メディアが大嫌いになり、テレビをすっかり見なくなった私ですが、数年前まではよく見ていました。
「坂上&指原のつぶれない店」という番組があります。
この番組、コンセプトが秀逸だなと思います。「なんでこの店潰れないの?」という疑問を思わず持ってしまうお店って本当に多いですからね。コンセプトを内包したタイトルになっていてこれもよき。
そもそも商売をテーマにした番組は経営者としてやっぱり興味をそそられますよね。
同番組で、数年前にあるイタリアンレストランを取り上げたんですね。
レストランの名前は「きむらさん家」。千葉の住宅街にあります。まあ、このお店がとにかく売れないお店でした。そんな「きむらさん家」を、有名経営者が改善、改良して立て直すという放送回だったわけです。
そうです。私が片道1時間20分かけて行ったのは「旧きむらさん家」なんです。本日はこの「きむらさん家」を題材にブランディングを語りたいと思うわけです。
「きむらさん家」は飲食店ですから、飲食店なりの売上アップの理屈ってものがあります。私はその部分はプロではないのであまり言及するつもりはないです。そうではなくブランディングの話。
当時の番組の中ではデザインやブランディングに関わるようなことも取り上げられていましたので、今日はそんな「きむらさん家」の番組内容を題材にデザインやブランディングの理屈ってヤツをお話してみたいと思います。
●「きむらさん家」とはどんなお店?
●一部上場企業社長が行った改革とは?
●実際に行ってみた
この3つのテーマでお話させていただきますね。
●「きむらさん家」とはどんなお店?
「きむらさん家」は前述したように千葉県の住宅街にあるイタリアンレストランです。
ご夫婦2名(木村さん)が経営しているお店で、まあ番組で取り上げられるほどなのでうまくいっているお店ではありませんでした。お客さんは1日に1組とか、日によってはゼロなんていう日もあり。
当時、子どもは食べざかりの男の子3人。稼がなくては生活ができない状況です。それでもなかなか思うようにいかない。3兄弟は野球をやっていますが、グローブやスパイクは買い替えるお金がなくボロボロ。
木村さんご夫妻はいろいろと試行錯誤をします。生ハムをフロントエンド商品としてものすごい安い価格で提供したり、お酒の種類をかなり増やしたりと努力します。
が、一向に売上が改善する気配はありませんでした。
少なからず子どもたちに辛い思いをさせていると感じている木村さん夫妻は、一念発起し番組出演を決められたのです(と勝手に私はそう思っています笑)。
そんな「きむらさん家」を繁盛店にすべく番組からアドバイザーとして送り込まれたのが、なんと東証一部上場企業、株式会社ホットランドの佐瀬社長です。
株式会社ホットランドといってもイメージがつかないかもしれませんが、お店のブランド名を聞けば誰でもわかるのではないでしょうか。
はい、「銀だこ」を運営する会社さんです。
佐瀬社長は、ご自身が起業されたときの状況や心境(開店初日の売上が焼きそば1つで350円だったこととか)と木村さん夫妻の現在をダブらせ、「きむらさん家」に感情移入します。
店は大通りからは1本入った2番立地、3番立地といった場所にあり、1番立地にはイタリアンレストランが競合店として数店舗。また店の外観は努力や苦労は感じつつも決して褒められたものではありませんでした。
佐瀬社長は、まずは木村さん夫妻に身分を明かさず客を装って店内やサービスのチェックをします。
店内の様子も雑多で決して「おいしそう」とか「おしゃれ」とか、飲食店としてプラスのイメージを直感的に感じるようにはなっていませんでした。むしろネガティブなイメージを持ってしまう店内。
そんな中、佐瀬社長の料理の評価は悪くありませんでした。また、パスタ(ボロネーゼだったかな?)の味は「うまい!」と太鼓判を押されていました。
さて、こんな感じの「きむらさん家」は果たしてどのように生まれ変わったのでしょうか?
●一部上場企業社長が行った改革とは?
このコラムでは、ブランディングのひとつの強力な手法として
- 専門特化
があるよ、というお話を何度かしてきました。
佐瀬社長の取った戦略も、まさに「専門特化」でした。しかもオリジナルのメニューでの専門特化。
そのメニューとは、イタリアンの味付けをしたラーメン「伊太そば」。シェフである木村さん(旦那さん)と開発し、それに特化した店舗へと変革を遂げる、これが佐瀬社長の戦略でした。
伊太そばのメニューも4種類に絞りました。
- カルボナーラ
- ジェノベーゼ
- アラビアータ
- ポルチーニ
です。個人的にはこのメニュー名を聞いただけで私は食べてみたいと思いました。
つづいてはお店のファサード(入り口)と内装のデザインを改良。
銀だこの内装を手掛ける建築デザイン事務所に依頼し、予算のない「きむらさん家」をホームセンターに売っているものを使って手づくりすることで見栄えを生まれ変わらせます。
使った費用はなんとたったの32万円。
子どもたちも店内外の改装を手伝います。これ、すごいいい経験だと思う。
一方「伊太そば」のほうも銀だこの商品開発部の方々と一緒に着々と開発を進めていきます。
オープン1週間前にホットランドの社員さんとともにオペレーションの確認も含めて店内シミュレーション。ここで問題発生です。
オペレーションがめちゃめちゃで、8席しかないカウンターのお店の最後のお客さん(を想定した社員)が店を出るときには来店してから1時間も経過してしまいました。
おまけに料理にバッシング(片付け)にと追われてしまった木村夫妻は「ありがとうございました」の掛け声も忘れてしまいます。
「伊太そば」はシメに残ったスープでリゾットをつくれるのですが、そのリゾットもいつまで経っても出てこない。「これではクレームになってしまうよ」と佐瀬社長。
前途多難かと思われましたが、木村さん夫婦はその後の猛特訓で本番までに料理の提供時間を早めることに成功。
なかなか気づきづらいお水の追加はおしゃれなデキャンタにお水を入れカウンターに置いてセルフサービスにしました。
リゾットもオペレーション上時間がかかることと、お客さん役で参加したタレントの千秋さんの意見「自分の食べ残したものをあまり触られたくない」を参考に「替え玉」に変更しました。
このようにして改善点を洗い出しては修正していき、いよいよオープンとなりました。
オープン初日の結果は上々で、スープが切れて閉店時間より早く店じまい、50杯分を完売することに成功しました。
50杯が毎日完売できるとデカいですよね。1杯1,000円だとしても1日の売上が5万円です(ちなみに先日いったとき、1,000〜1,100円という価格帯でした)。
なにせ売上がほとんど立たない日があるレベルでしたから、これが継続できるなら相当な改善ではないでしょうか。生まれ変わったに等しいくらい。
ざっくり計算すると、25日営業で毎日完売できれば月商125万円です。一般的な飲食店のフードコストは30〜35%と言われています。多少こだわって40%あったとしても粗利益は75万円です。
また、同じく35%程度かかると言われるレイバーコスト(人件費)は夫婦で経営している限りは丸々利益です。家賃や水道光熱費を差し引いても50〜60万は利益が出ると思われます。
あとはいかにこれを継続できるか、つまりリピーターさんづくりができるか。
当時、コラムを書くにあたって本当は「きむらさん家」改め「伊太そば」に実際に行って食べてみようと思ったのですが、お伝えしたとおり会社から1時間20分もかかるもんですから、当時は断念。
ちょっと陰険な発想かもですが、こういったテレビの企画の影響がその後もちゃんとつづくのかも知りたかったんですね。それで今回5年越し(5年前の番組でした)にお店に行ってみたというわけです。
●実際に行ってみた
さて、会社のある渋谷区幡ヶ谷から都営新宿線→都営浅草線→京成線と乗り継いで着きました、実籾(みもみ)駅。お店はどうやら徒歩2分らしい。
実籾駅はこじんまりした駅前で数店の飲食店がありますが、ほとんど住宅地という感じ。この場所で勝負しようと思ったら、消費者に「目的行動」を起こさせるしかありません。
「目的行動」とは、「きむらさん家」改め「伊太そば」を食べるために店に行く、という行動です。ちなみに逆は「非目的行動」といい、「ついで買い」とか「一見(いちげん)で眼の前の店に入る」とかになります。
つまり、今回の場合、この立地では一見さんはあまり期待できないということです。
人がまばらな昼間の住宅地を進んでいくと、ありました、「伊太そば」です。
筋トレをするようになってから、基本的に小麦をあまり摂らないようにしていましたから、今回のラーメンは私にとっては貴重です。おいしくあってくれ!
ちなみに事前に食べログを見ていましたが、評価は「3.50」と悪くありませんでした(むしろ最近ならいいほう?)。
到着してさっそく店のファサードをパシリ。撮影させていただきました。
ちなみにこちらがテレビ放映時の改装前(つまり「きむらさん家」)のファサード。
店の前にはA看板が。これがウワサの4つに絞った伊太そばか。楽しみ。
番組では「アラビアータ」があるといわれていましたが、どうやらなくなった様子。代わりにNo2の「豚骨イタリアンラーメン」が。
さんざん悩みました。人気No1のカルボナーラか、それとも大好きなジェノベーゼか、はたまた店長イチオシのポルチーニか。
何にしたと思います?(どうでもいいですかね笑)
私が選んだのは、「店長イチオシ ポルチーニ」でした。そのときの心理はこうです。
- そのとき、カルボナーラの口ではなかった。
- そもそも個人的に定番とか人気No1とかにあまり惹かれない性格。よくカップヌードルを食べていたときも(今は食べません)、プレーンはほとんど食べず変わった味のやつばっかり食べていた。
- ジェノベーゼの「実は1番ラーメンっぽい」のコピーが逆に作用した。ラーメンを食べに来たわけではなく「伊太そば」を食べに来たので、このコピーを見て選ぶのをやめた。
このようにキャッチコピーひとつで消費者の選択は大いに変わってしまうわけです。ということをお伝えしたかった。
店に入ると、きむらさん家の奥さんが。テレビで見ていた人を生で見てナゾに感動。
そんな奥さん、店の広さと声のボリュームのバランスがあっていないというか、めっちゃ聞こえてるのにめっちゃ大きな声で話されて、しかも話し方がちょっと機械的な感じで違和感を感じてしまいました(汗)。
厨房の奥には旦那さんもいます。芸能人でも見るような感慨でメニューを告げ、チーズとチャーシューのトッピングも頼みました。
店内はお昼時12時半過ぎなのに客は私ひとり。
ちなみにこちらが「きむらさん家」時代の店内。
「平日の住宅街なんてこんなものか」と思っていましたが、私が呼び水になったのか、続々とお客さんが入店。
お客さんもはじめての人が多そうでした。というのも、きむらさんの奥さんがバランスを欠いたボリュームで機械的に「はじめてのご来店ですか!?」と聞いてくるので(笑)、みんなそれに答えるんですね。
すべては聞き取れなかったのですが、けっこう「はじめて」と答えている人が多く。。。みんな過去に番組を見た人なのか??
さて、注文を終えて楽しみにしながら食事前にトイレに行って出てきたら、もう伊太そば がテーブルに乗っていました。早っ!当時の番組ではオペレーションめちゃくちゃで時間かかってたのに!早すぎて逆にちょっと不安。
肝心のお味のほうは。。。ふつうに美味しかったですよ、はい。ただ、あえて苦言を呈するなら、ちょっと味が濃かった。端的に言えばしょっぱかった。しょっぱさに香りが負けている感じ。もう少し香り豊かだったらよかったなー。
あと、チーズのトッピングを頼んだのですが、はじめから伊太そばに入った状態で提供されました。チーズのような味に影響を与えやすい食材は別皿にしてもらいたいな〜。最初のほうはそのままの味を楽しみ、食べてる途中で味変したいので。
「もう1回行くか?」と聞かれれば、「近所にあれば行く」という回答になります。他の味も食べてみたいと思わせてくれました。
味よりも気になったのは、店内の整理整頓についてです。いろいろな資材やら材料やら段ボールやらが目に見えるところに置いてあり、これはちょっと残念でした。
店内はせっかく佐瀬社長やデザイナーさんがおしゃれにつくってくれたわけだし、どちらかというとラーメンよりもイタリアンのイメージが強いわけです。
雑多な町中華とか居酒屋ならそれも雰囲気なのでわかるのですが、イタリアンで小洒落た店がこのあたりに気を使えていないと、急にブランド価値が下がりはじめるというのが私の考えです。
具体的には「メリコの法則」でいう「リ(理解できる)」と「コ(好感が持てる)」が損なわれます。
雑多に置かれた資材や段ボールは「おしゃれなイタリアンっぽくない」と人は(無意識的に)感じますし、そもそも好感度が下がってしまいます。
このあたりはセンス(デザイン的にきちんと整える)もありますが、どちらかというとメンタリティも大いに関係すると私は思います。
つまり、きむら夫妻は「そんな状態でも気にならない」というメンタリティだということです。それってどうなんでしょう。
すごく僭越なことを言わせてもらうならば、そのメンタリティによって表現された店が「きむらさん家」だったわけで、その「きむらさん家」は繁盛しなくて困っていたわけです。
せっかく「伊太そば」というオリジナル商品と「銀だこの社長がプロデュースした」というブランディングの強力な2つの武器を手に入れたのに、今のままではもったいないな、というのが率直な感想です。
ちなみに新商品もいくつかあるようで、そのメニューはしっかりと(おそらくプロが)撮影をした写真を使っていました。そこはちゃんとしてるんかい。
というわけで、みなさんも実籾駅に行く用事があったら(そんなのあるかわかりませんが)「伊太そば」に行ってみてはいかがでしょうか?がんばれきむら夫妻!!
今回はここまでです!
津久井
投稿者プロフィール

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ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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