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福岡に来ております。何度来てもいい街。
そして本日は山口県に移動。山口は10年前に「日本一周お客さま巡り」をしていたときに来たことがあります。
バックパックを担いで1ヶ月間マンガ喫茶に寝泊まりするという企画。今ならYou Tubeの企画として成立しそうですが、この年になってやれと言われると厳しいものがあるかも。
でも「ぜひ日本一周してうちに立ち寄ってほしい!」という声が多くあるならばやるかもしれません。1、2件しかなければ、それは普通に出張してお伺いします(笑)。
さて、本日のコロコロニュース。さらっと。
さて、ちょっと今日はアカデミックでマニアックなお話かもしれません。
人間の能力に関するお話で、デザイン的なことから、仕事ができる人、できない人といったことにまで関係する、おまけに「陰謀論」もちょっと関係する(?)お話です(「陰謀論」を語るということではないです)。
好きな人には好きな話だと思うんですよね。脳の機能的なお話ですので。
「ゲシュタルト能力」って聞いたことありますか?
●なぜそれが「りんご」だと分かるのですか?
だいぶ前ですが、電車の中でこんな広告を見ました。
この「ぱれたん動物園」のロゴタイプ(文字ロゴ)を見てみてください。
「動物園」の「動」の文字には動物の足あとらしきものが入っています。また、「園」の文字には動物の口元のようなものが入っています。犬や猫、ライオンの口元でしょうか。「動物らしさ」を感じるかわいらしいロゴデザインになっています。
よくできているなと思い、それこそコラムのネタになるだろうと写真を撮っておいたんですね。
対して、こちらのロゴおよび広告は何のロゴ、広告かわかりますでしょうか?何年か前に品川駅のコンコースのデジタルサイネージに出てきた広告です。
私はこれが何の広告か一発ではわかりませんでした。わからなすぎて思わず写真を撮ってしまいました。
よく見ると、なんとなくスポーツ系の広告に見えるかと思います。さらにじっと見ていると、スポーツが好きな人にはわかるかもしれません。これ、バスケットボールの広告なんです。
真ん中の人のような図形は、バスケットボールの縫い目を表しています。おそらく「人」も表していると思います。
で、「スポーツ好きならわかるかも」なんて言いましたけども、実はこれが「【車椅子】バスケットボール」の広告だとわかる人はどれくらいいるでしょう??
「車椅子バスケットボール」だというのは広告の下のほうにちっちゃく書いてあるだけです。駅の交通広告です。みんな歩きながらみるわけです。はっきりいって車椅子バスケットボールだとは認識できません。
まあ、ここのデジタルサイネージだけでなくいろいろなメディアに露出している「クロスメディア」だからうんちゃら。。。というのが代理店さんの言い分でしょうが、せっかくの広告面がもったいないですね。
さてつづいて、ここでこちらをご覧ください。
この写真は何かわかりますか?はい、りんごです(笑)。ではこちらは?
このロゴは何をモチーフにしているか?はい、りんごです。バカにするな、という話ですね(笑)
では、なぜAppleのロゴを見て「りんごだ」とわかるのでしょうか?これって、よーく考えると不思議じゃないですか?
おそらくりんごを食べる動物(ゴリラとか?)にこれを見せてもリンゴだとは認識できません。なのに、なんで人間は「りんごだ」とわかるのでしょうか?
先ほどの「ぱれたん動物園」のロゴタイプ、なぜ「動」という文字を正確に書かず動物の足あとを入れているのに「動」の文字だとわかるのでしょうか?
「園」の文字も動物の口元が入っていて、「園」という字を正しく表していないのになぜ「園」と読めるのでしょうか?もっといえば、なぜ「動」の文字に入っているのが動物の足あとだとわかるのでしょうか?なぜ「園」の文字に入っているのは犬や猫やライオンの口元だとわかるのでしょうか?
「いやいや、当たり前だろ」と思うかもしれませんが「なぜか?」と言われるときちんと説明できないのではないでしょうか?
また、なぜ車椅子バスケットボールの広告は「バスケットボール」だと認識しづらいのでしょうか?でも「なんとなくスポーツ系だ」と感じるのはなぜでしょうか?
これはよくよく考えたら当たり前のようでスゴい能力なんです。
これを「ゲシュタルト能力」といいます。
●「それはゲシュタルト能力のしわざです」
さて、ここから急にアカデミックになります。気絶しないようにご注意ください。
ゲシュタルトっていうのはゲシュタルト心理学というのがありましてね。
ちょっと何言ってるかわからないですね(笑)
まあ簡単にいえばですね、2つ以上のものを見てそれが仲間だとか、どっちが上位概念か(後述します)とかそういうことがわかったりすることだったり、先ほどのりんごの画像のように、見たものが過去に見たことがあるものと仲間だと解釈できたりすることをゲシュタルト能力といいます。
たとえば、小さいお子さんがいるとわかると思いますが、子どもははじめは何でも口に入れてしまいます。食べ物でなくても、です。
これがゲシュタルト能力が身についてくると、見ただけで(口に入れて確かめなくても)それが食べ物だ、または食べ物ではないと認識できるようになります。
他にもみなさん、当たり前のように感じるかもですが、まずはこの2枚の画像をご覧ください。
(出典:わんちゃんほんぽより)
2枚の画像を見て、どちらの写真も顔が違うのに「犬だ」ということがわかるのもゲシュタルト能力のたまものです。
不思議ですよね。四足歩行の生き物は犬以外にもいますし、同じ犬でも犬種によって顔つきが違うのに。
また、この画像を見て「仔犬=犬の子供だ」とわかるのもゲシュタルト能力があるからです。
(出典:わんちゃんほんぽより)
さらに言えば、この画像を見てください。
(出典:猫画像どっと 猫ブログ)
これが鍋ではなく「猫だ」とわかるのも、そして犬を含めて「哺乳類だ」とわかるのもゲシュタルト能力の成せる技でなのです。
さらにさらに、この画像を見てください。
「これは猫ではなく人間の女性だ」とわかってしまうのも、なんとゲシュタルト能力のしわざなわけです(画像探すのちょっと恥ずかしかった)。
というわけで、さきほどの「ぱれたん動物園」のロゴタイプが「動物園」と読めてしまう理由は、このゲシュタルト能力のなせる技、ということなんですね。
そして、バスケットボールの広告がバスケットボールだとわかりづらいのは、人間のゲシュタルト能力を利用しきれていないから、ということに他なりません。
私たちの「デザイン」という仕事はこのゲシュタルト能力を利用している、と言い換えてもいいわけなんです。
「動物園の広告や車椅子バスケットボールの広告を出されても自分には関係ないよ」と思うかもしれませんが、もっともっと身近なところにも、人間のゲシュタルト能力を活かしたデザインがあります。
たとえばこちら。
高速道路標識、「不思議な文字」の悲しい運命(東洋経済オンライン)より引用
「宇都宮」の「都」とか、「川越」の「越」とか、「豊田」の「豊」とか、よく見ると正しい字ではありません。特筆すべきは「三鷹」の「鷹」。よく見るとぜんぜん違う。
これは、速いスピードで走っている車のドライバーにとって、正しい漢字では認識が難しいため、ゲシュタルト的に「理解できる」ところまで省略した文字になっているというわけです。
ではクイズです。これ、何かわかりますか?
正解はこちらのロゴの一部です。
「日本財団」のロゴタイプ(私好きなんです)。「財」も「団」もだいぶ崩しています。「団」の文字だけ見ても「団」と認識するのは難しい。「日」「本」「財」「団」の4文字があるから「日本財団」と読める。
こういう「ゲシュタルト的に理解できるギリギリを攻めたデザイン」というのが好きなんですよね。
ちなみに、このコラムで何度も登場する「メリコの法則」の「リ」=「理解できること」は、言葉や図を使ってわかりやすく理解させているか、ということもあるのですが、ゲシュタルト的に正しく解釈できるか、という意味も含んでいます。
これは「〜〜っぽい(かどうか)」と言い換えられます。
たとえば超極端な例ですが、缶のブラックコーヒーをオレンジジュースっぽいパッケージデザインにすると、誰もがオレンジジュースだと勘違いし、ブラックコーヒーだとわかったあとでも購入にブレーキがかかります。
そうなると、好奇心で買う人は一定数いますが、売れつづけるのは難しい商品になります。これはメリコの「リ」がずれているから。
先ほどの「車椅子バスケットボール」の広告もまさにこれで、「何かわからんがスポーツっぽい」と感じるのは、スポーツらしさはギリギリ出せていたから。でも何のスポーツかまでは直感的にはわからなかったわけです。それが問題。
●ゲシュタルトと仕事の能力
ゲシュタルト能力が高い人は「一般的に」仕事ができる人です。
ゲシュタルト能力が高い人は、物事の上位概念、下位概念がわかります。たとえば、
- 我が家の「ミケ」は三毛猫であり、
- 三毛猫は猫であり、
- 猫は哺乳類であり、
- 哺乳類は動物であり、
- 動物は生物である
ということがわかるということです。
これは簡単な例で誰もが当たり前と感じるかもしれません。むかし理科の授業で習ったよ、と。
しかし、これ(上位概念、下位概念)が仕事になるとわからなくなってしまう人が多い。仕事でもこれができる人は、仕事に優先順位を付けられる人で効率的に仕事を進められたりします。
優先順位がつけられる人は当たり前ですが、仕事ができる人ですね。
また、「パターン認識」にもゲシュタルトは関係していると考えます(優先順位も一種のパターン認識ですが)。
たとえば、その仕事が過去に手がけたものの応用で行けるかどうかとか、過去の仕事のどれに似ているか、というのはまさにゲシュタルト能力です。
なので、総じてゲシュタルト能力が低い人は仕事ができないことが多いと思われます。職人さんなどの技術職で、ひとつの技術に集中できる人はさほど問題ないかもしれませんが、マルチタスクをこなさなければならない職種の人には必須です。
しかし、ゲシュタルトには注意も必要です。安易にゲシュタルトに頼ってしまうと問題が生まれます。
たとえば、「隠れた前提」を疑わなくなってしまうことがあります。「隠れた前提」とは、以下の例文ようなものです。
「新入社員のあの若い女の子には、若い柔軟な発想を活かしてあの企画をやってもらう」
私が以前通っていたグロービス・マネジメント・スクールの「クリティカル・シンキング」という科目で真っ先に習ったこと、それは「隠れた前提を疑え」ということです。
この例文の隠れた前提はどこにあるかというと、「若い女の子」=「若い柔軟な発想」です。若いからといって柔軟な発想の持ち主とは限りません。これが「隠れた前提」というやつです。
これ、つまり「若い女の子」=「若い柔軟な発想」が安易にゲシュタルトに頼ってしまうということです。
我々の業界では、「デザイナー=クリエイティブな人」という「隠れた前提」があります。実際はデザイナーだからといってクリエイティブな発想ができる人とは限りません。絵が好きで、絵を描くことが得意だったからデザイナーになった、という人もいるわけです。
ここを「デザイナー=クリエイティブな人」と決めつけてしまうといろいろなところで不具合が出ます。
こういった「隠れた前提」は、実はいろいろなところにはびこっています。その代表格が「レッテル貼り」です。
たとえば「中国人は〇〇だ」「韓国人は〇〇だ」といったのもこれです。中国人だって韓国人だって、ましてや日本人だって良い人と悪い人がいるのは当たり前です。しかし、そこを切り分けて考えられずひとまとめにしてしまうのはゲシュタルトの悪い例です。
今だと「反ワク」とかも同じですし、「陰謀論者」もまったく同じです。
以前、私のコラムのコロコロニュースを読んだあるお客さまとメールでやり取りしたことがありました。「ワク◯ソ」は危険かどうかについて(ご存知のとおり私は危険だと考えています)。
その中でちらっと陰謀論界隈で出てくる情報をお伝えしたところ、「あ、陰謀論系の人なんですね、じゃあいいです」的な趣旨の返信をもらいました。
失礼を承知で言いますが、それは頭の悪い人がやるリアクションです。陰謀論の中にも本当の情報もウソの情報もありますが、一般的ではない情報をいう人を「陰謀論者」で片付けてしまうのも、ゲシュタルトの悪い例です。
私が「支配者(という人たちがいると言われている)」だったら、そういう人のことを騙すのはチョロいもんだぜと思ってしまいます。ウソの情報を紛れ込ませればいいからです。
ひとつのウソで一般的ではない情報のすべてを「陰謀論」とくくってしまうゲシュタルトの特性を活かせばかんたんに騙せるわけです。
ゲシュタルト能力は便利です。過去の経験から、さまざまなことを効率的に進めたり時間を圧縮することができます。
なので、仕事ができる人はこの能力が高いといって差し支えありません。「見て、匂いを嗅いで、食べてみないとそれがリンゴだと分からない」という人がいるとしたら、明らかにその人は仕事ができませんよね。
しかし、見てきたようにゲシュタルトにのみ頼りすぎると、本質的な何かを見落とすこともあり得ます。ゲシュタルトは「隠れた前提を生みやすい」とも言えるからです。ここが難しいところです。
基本的にはさまざまなことを「切り分けて考える」「分解して考える」という姿勢が大切になります。「分ければ解る」と書いて「分解」です。
ゲシュタルト能力を活かしつつも、ゲシュタルト能力に溺れない必要があるわけですね。
●デザインやレイアウトにおけるゲシュタルトの実例
最後に、デザインやレイアウトに関するゲシュタルトのお話を少しします。
ここからはちょっとマニアックで限定的な話になりますので、必要ない場合は読み飛ばしていただいて構いません。ただ、社内でカンタンなチラシなどをつくられる際にもしかしたら役に立つ情報かもしれません。
以下の3つは「プレグナンツの法則」というやつで(覚えなくていいですけども)、人間がゲシュタルトを知覚するときの法則です(※すべてWikipediaから引用)。
【近接の要因】
近接しているもの同士はひとまとまりに感じます。たとえば以下の図では、近接している2つの縦線がグループとして知覚されます。
離れた縦線同士はグループにはなりにくいです。
【類同の要因】
いくつかの刺激がある時、同じ種類のもの同士がひとまとまりになりやすいです。たとえば以下の図では、黒い四角と白い四角のグループが交互に2つずつ並んでいるように知覚されなます。黒白と白黒のグループが交互に並んでいるようには知覚されにくいです。
□■■□□■■□□■■□□■■□□■
【閉合の要因】
互いに閉じあっているもの同士(閉じた領域)はひとまとまりになりやすいです。たとえば以下の図では、閉じたカッコ同士がグループをだと認識されます。「 〕」と「〔 」同士では、グループとして認識されにくいです。
〕〔 〕〔 〕〔 〕〔
ちょっと、マニアックな話しすぎましたかね。。。でも、こういったことを理解してチラシやプレゼン資料のレイアウトを組むと、伝わりやすさが圧倒的に変わってきます。
ゲシュタルトをうまく利用した実際のデザインを見てみましょう。
たとえばこのロゴをご覧ください。
ちょっと前に放送していた有名なテレビ番組のロゴですね。ロゴタイプ(文字)のところをよく見てみてください。「S」ってよくみたらSじゃないですよね。「R」なんて左の縦棒「|」がないです。
でも「SPORT」と読めるわけです。これ、見る人のゲシュタルト能力を利用したデザイン。
他にもこちら。
(出典:静岡時代)
これ、「静岡時代」って読めますよね。でも一文字ずつ見てみるとめちゃめちゃ崩しています。人間のゲシュタルト能力を限界まで利用したデザインです。私はこのロゴ好きです。今は変わってしまったようですが。。。
他にも、
鉄道博物館。文字ではなくマークの部分をご覧ください。これもゲシュタルト能力を利用した抽象化の好例です。汽車の車輪とわかります。
卑弥呼。女性の靴ブランドです。ロゴタイプ(文字)を見てもらいたいのですが、これって一見、ただの文字に見えるかもしれません。でも、なんとなく高級感を感じませんか?
これが、こうなったらどうでしょう?
オシャレな靴のブランドとはとうてい感じませんよね。文字から高級感を感じる、または感じないということもゲシュタルトのひとつですね。
どうですか?個人的にはこれはとても面白いしめちゃめちゃすごいことだと思います。
さて、最後に。。。おまけというか余談というか。
あああああああああああああああああああああああ
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これ、ずっと見ていると「あ」の集合体には見えず模様のように感じたり、「あ」の形ってこんなんだっけ?と感じたりしませんか。これを「ゲシュタルト崩壊(通称:ゲシュホ)」といったりします。
さて、今日はとってもお勉強チックなお話でした。なんとか楽しんでもらえるようにお話したつもりですが、いかがでしたか?
今回はここまでです。
津久井
投稿者プロフィール
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ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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