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さて、この度ビズアップではある言葉の商標登録を行いました。それは
- 感じる言葉
です。
このメルマガでもたびたび「感じる言葉」という言葉を使ってきましたが、みなさんはこの言葉をどう感じますか?
「感じる言葉という言葉を聞いてどう感じるか」
よく考えると「変な質問だな」と感じますね(笑)
今日はまたゴチャゴチャと理屈っぽいお話をします。「感じる」ということいついての考察です。
●そもそも「感じる」って何?
そもそも「感じる」って何でしょう?ぼんやりとわかるけど明確に説明しきれないというか。。。こういうとき、私はまずは辞書を調べます。
(1)感覚器官の刺激を通して情報を得ること、知覚することを意味する語。「痛みを感じる」などのようにいう。
(2)感情を抱くことを意味する語。「屈辱を感じる」などのようにいう。
(3)理屈よりもむしろ感性・感受性を通じて判断することなどを意味する語。「春の到来を感じる」などのように用いられる。
(4)性的刺激・官能的刺激を受けて快感を得ている様子を意味する語。
Webilio辞書より引用
まあ、「そうでしょうね」という感じ。でも、もう少し深く考えてみたい。特に私たちは「ブランディング」や「デザイン」、「コピーライティング」といった、ある意味「感じるをコントロールする仕事」をしていますから、もうちょっと掘り下げたいところ。
特に「ブランディング」「デザイン」「コピーライティング」といった分野においての「感じる」をもう少し明確にしてみましょう。
まず、「感じる」というとWebilio辞書にあるとおり、五感を通して行うものが一般的でしょう。
- 視覚:見て感じる
- 聴覚:聞いて感じる
- 嗅覚:嗅いで感じる
- 味覚:味わって感じる
- 触覚:触って感じる
これらはどちらかというと「どうやって感じるか」です。辞書の表現だと少し浅く感じてしまうのは、「どうやって感じるか」に主眼が置かれてしまっているから。そうではなく、それぞれ「どう感じるか」「何を感じるか」ということに着目してみたいと思います。
たとえば「懐かしい」という感覚があります。「懐かしさを感じる」というとき、
- 視覚:3歳のころの写真を見て感じる
- 聴覚:昔流行った歌を聞いて感じる
- 嗅覚:小学校の教室の匂いを嗅いで感じる
- 味覚:実家の母親の料理を味わって感じる
- 触覚:過去の辛い体験を思い出して感じる
などなど。「触覚」はちょっと比喩表現でして、物理的な痛みで懐かしさを感じるのは昔SMにはまったことがある人とかしか思いつかず(笑)、あまりなさそうなケースだったので松田聖子のスイート・メモリーズの一節「♪懐かしい痛みだわ ずっと前に忘れていた」から取ってみました。
他にも「怒りを感じる」とか「きれいだと感じる」とかいろいろありますが、「懐かしさを感じる」の例のように、「何を感じるか」には「どうやって感じるか」はあまり関係なさそうです。視覚だろうと聴覚だろうと「懐かしさ」を感じることはあるわけです。だから「どうやって(どこの器官をとおして)感じるか」の説明だと浅く感じてしまうわけです。
さて、感じ方はひとそれぞれと言います。たとえば「昔流行った歌を聞いて」懐かしいと感じる人もいれば、それに紐付いた過去の辛い経験を思い出して「不快」と感じる人もいるでしょう。感じ方はたしかにひとそれぞれ。
と思いきや、決してそうとも言い切れないのです。同じものを見聞きして、多くの人が同じ印象を「感じる」というケースもたくさんあります。
音楽の例で考えてみましょう。音楽には「メジャーコード」と「マイナーコード」というものがあります。バンドでメジャーデビューしかけた私ですが、中学の時の音楽の成績は「2×」でして、いまだに楽譜が読めませんので、音楽理論的な説明にはとても自信がありませんが、すんごくざっくりいうと
- メジャーコード:明るい和音
- マイナーコード:暗い和音
です(イメージ湧きますかね?汗)。大事なのはここからなのですが、なぜ音を聴いただけで「明るい」とか「暗い」と「感じる」のでしょうか。しかも「感じ方はひとそれぞれ」のはずなのに、大抵の人がメジャーコードを聴けば「明るい」と感じ、マイナーコードを聴けば「暗い」と感じます。なぜ??
身も蓋もないことを言えば「脳の構造的にそうなっているから」としか言えません。。。しかし、たしかに「そう感じる」という事実。
ひとつ面白い実験をご紹介します。こちらをご覧ください。
これ、左右のイラストに「ブーバ」「キキ」とそれぞれ名前をつけるとしたら、どちらが「ブーバ」でどちらが「キキ」かわかりますか?ぜひ答えてみてください。
・
・・
・・・
・・・・
いかがでしょうか?
実は答えはありません。どちらがどちらだと思うか、という印象調査のテストです。ただ、この結果がまた不思議なんです。
大抵の人が左がブーバ、右がキキ、と答えるそうなんです。しかもその結果はなんと98%!98%のひとが左がブーバで右がキキと答えるというんです!
これすごくないですか?さらにすごいのが、その回答結果に年齢、性別、国籍、言語は関係ないという!どんな国の人でも、何語を話す人でも、男でも女でも、子どもでもおじいちゃんおばあちゃんでも。
これを「ブーバ・キキ効果」と言います。見た目と語感には相関関係がある、ということを示した実験なわけですが、
「このカタチならなんとなくこういう名前(音)」
「この名前(音)ならなんとなくこういう見た目」
と「感じる」わけです。逆にこの感覚から外れていると気持ち悪くてしかたないと「感じる」、違和感を「感じる」、ということなんです。しかも「感じ方はひとそれぞれ」どころか98%の人が。。。
●画(え)から感じる、言葉から感じる
ちなみにワタクシ、デザイン会社を経営しているくせに中学の時の美術の成績は「2」でして(さっきも似たような話ししましたね汗)、アート方面にはぜんぜん明るくないのですが、「井田幸昌」という画家さんを人に教えてもらってその絵を見たときは、度肝を抜かれました。
絵を見て生まれてはじめて「うまいな」以外の感覚を感じました。それはしかし言葉に表すと「すげー!」といったとてもありきたりな表現になってしまい、いまだにうまく表現できないのですが。。。以下が井田幸昌さんの絵(グーグル検索より引用)です。
ちょっとここで新しい疑問。
「感じる」と「考える」って何が違うんでしょう??これもイメージとしてはありますが言葉で説明するとなるとちょっと整理して「考えて」みないといけないですね。
井田幸昌さんの絵の例でもあるとおり、「画(え)=見た目から感じる」ということは比較的イメージが湧くのではないでしょうか。たとえば風景の写真を見て「きれいだと感じる」とか。
つまり、これが「デザイン」の領域です。デザインを見せて「狙った感情を抱かせる、感じさせる」というのがデザインの重要な役割のひとつです(デザインの役割はこれだけではありませんが割愛します)。
画(え)から何かを感じる例は他にもたくさんあります。3歳の我が娘、息子を見て「かわいい」「愛おしい」と「感じる」ことは、子どもがいる人なら容易に想像がつくと思います。
街でイケメンや美人を見たときに「ステキだと感じる」、「トキメキを感じる」なんていうのも、見た目という画(え)を見て何かを感じている例になりますね。
無声映画、たとえばチャップリンの映画は「面白いと感じ」ます。これも画(え)から「感じている」例です。
さて、私たちが提供しているブランディングは主に「言葉と画(え)」で行いますので、「言葉と画(え)」ということで今度は「言葉」に着目してみます。
「言葉で感じる」っていうことはあるのでしょうか?
前述の問いかけ、「感じる」と「考える」の違いを考えるときに、多くの人が「画(え)は感じる、言葉は考える」というふうに「感じた」と思います。が、これは本当なのでしょうか?「言葉から感じる」ということはないのでしょうか?
今週の「水曜日のダウンタウン」をご覧になられましたでしょうか(私はもはや最近テレビ番組は「水曜日のダウンタウン」と「日本沈没」しか見ていません)。ここで面白い説が検証されていました。こういう説でした。
- ブチギレているやつ 存在しない言葉使ってもバレない説
これはお笑い芸人「さらば青春の光」の森田さんが後輩芸人に説教中に、実際には存在しない言葉を織り込み、聞き返されたら終了、どこまでいけるかというものを検証したものです。個人的にはものすごく面白かった。
以下、森田さんと後輩芸人のやり取りをピックアップしてみました。番組(ニセ)にのぞむ準備ができていないことから、芸人としての姿勢を大声で説教しているやり取りです。すべて森田さんのセリフ。語気を強めた森田さんを想像しながらお読みください。
- 「今日だって俺が名前出してお前がリックスされたわけやんか」
- 「やってきた姿勢というか 蘇豪(そごう)の利かもせんけど いや俺頑張ってほしいと思っているから・・・」
- 「これで2人で出て全然あれで 結局地蔵の墓場やんってなったら・・・」
- 「これが 言ってんのがずーっと天元論(てんげんろん)かもせんけども・・・」
- 「結局稚疎(ちそ)としか思ってないやん俺のこと」
- 「そういうのって来てから別にこっちもブレック効果であーこいつはやってんやなとか思うわけやん」
- 「何でもかんでも村雨小路(むらさめこうじ)でええわけないやん!」
- 「天狗の土台で漫才してんちゃうねんから!」
- 「関西の賞レース出てなんもならんかったやん ド平(どへい)で終わったわけやろ!」
- 「ずーっとそのまんまやぞ なあ ただのスクープセイントで終わんぞ!」
- 「仰丹(ぎょうたん)がなってないから刺さってないと思うねん 仰丹がなってないねん!」
- 「この世界で売れてるやつって絶対に何かあんねん 絶対に何か持ってて売れてんねやんか 全員が何かそのキングビーナスオンを持ってるから・・・」
「スクープセイント」で怪しまれ「仰丹」で聞き返されそうになり、「キングビーナスオン」で聞き返されてしまいました(笑)
しかし、なぜこれ(この言葉たち)が成立するのでしょう?
それは、これらの言葉が「ありそうだ」と「感じる」からです。つまり言葉からも「感じる」ことはあるということです。「言葉=考えるもの」となるとは限らないわけですね。
そもそも日本語には昔から「擬音語」「擬態語」などの「擬◯語」がたくさんあります。たとえば以下のようなものです。
- 「擬音語」:ざあざあ,がちゃん,ごろごろ,ばたーん,どんどん等
- 「擬態語」:きらきら,つるつる,さらっと,ぐちゃぐちゃ,どんより等
- 「擬容語」:うろうろ,ふらり,ぐんぐん,ばたばた,のろのろ,ぼうっと等
- 「擬情語」:いらいら,うっとり,どきり,ずきずき,しんみり,わくわく等
「ギトギト」というとなぜかさわやかさよりも汚さを感じます。「ふわふわ」は軽く、「どっしり」はなぜか「重さ」を感じます。前述のとおり身も蓋もないですが「そう感じるから感じる」わけです。この「感じる」「意味はわからないのにそう感じてしまう」という言葉はたしかに存在するし、「リックス」や「蘇豪の利」のようにそれっぽくつくることさえできるということです。
これが、ビズアップが「感じる言葉(R)」を商標登録した理由です。
ここでは
- 「言葉=考える」とは限らない
- 言葉からも感じることはできる
という点がポイントとなります。
●結局「感じる」ってどういうことなの?
さて、結局「感じる」というのはどういうことなのでしょう?そして「感じる」と「考える」の違いはなんでしょう?
これまでの情報を整理すると
- 「どうやって(どの器官を通して)感じるか」よりも「何を感じるか」を考察したほうが深い
- 「感じ方はひとそれぞれ」と思いきや、多くの人が同じように「感じる」ということもたくさんある
- 「言葉=考える」「画(え)=感じる」とは限らない
というところでしょうか。
「感じる」と「考える」の違いを考察してみると、わりと多くの人が「感じる」の反対が「考える」、「感じる」と「考える」は対義語的、という印象を持っているのではないでしょうか。
しかし、これは本当でしょうか?
たとえば私の大好きなタグライン(企業のスローガン的なコピー)に、大成建設の「地図に残る仕事」というものがあります。これ、とても秀逸だと思いますが、これって一瞬「考え」ませんか?「地図に残る仕事。。。あ、建設会社だからか!」と考えた後に
「自分の仕事に誇りが持てそう!」
「ぼくそんな仕事に就きたい!」
と「感じ」ませんか?
ということは、「考えた後に感じる」という現象も十分存在しそうです。
「感じる」と「考える」が対義語のように感じてしまうのは、「考えた結果何も感じない言葉」も存在するからです。たとえば、
- そこの交差点を右に行けば駅です
- 3.8×4.4÷2.9
とか。駅への道のりを聞いても特に何も感じません(「右に1km行けば」になると「遠い」と「感じる」)。「3.8×4.4÷2.9」の答えを考えて「5.77(四捨五入)」だとわかっても何も感じません。
中には「マジか~!右に行ったら駅なのか〜!ゾクゾクする〜」という人や、「え?5.77なの?マジ?めっちゃテンション上がるんだけど!え?もう一回計算していい?やっぱり5.77や〜!」という人もいないとも限りませんが(笑)。
このように「考えても何も感じない言葉」があることで、「感じる」と「考える」は両立し得ないイメージを抱かれがちです。しかし実際は両立するケースはたくさんあります。
そこで「感じる」と「考える」の違いを考える上で関係性を図にしてみました。
「感じる」とは言い換えるならば
- 記憶のデータベースから似ているものを引っ張り出してくること。そこに喜怒哀楽などの感情を伴う場合もよくある。
ということだと私は結論づけます。
人はだれでも過去にあったできごとや記憶などをもとに何かを「感じ」ています。これは何も個人のできごとや記憶に限らず、遺伝や本能などなど、人間という生物そのもののデータベースも含みます。
「考える」とは、この記憶のデータベースから似た情報を引っ張り出してくるまでの時間のことなのではないでしょうか。
つまり、「感じさせる力が強い表現」というのは、過去のデータベースから引っ張ってくる情報にいち早くアクセスできるくらい表現がうまい、ということになります。それこそ考える間もないほどに。
これがこのコラムで何度かお話している「デザインの無拒否性(C)」などと関係してくるわけですが、データベースにいち早くアクセスできる(考える時間が圧倒的に短い)ほど、無拒否性が強くなります。何かを感じずにはいられない、何かしらの印象を受け取ってしまう、ということです。
「感じさせる力が強い表現(考える時間が圧倒的に短い表現)」というのは、「〜〜っぽい」「〜〜らしい」という言葉で言い換えられます。これが水曜日のダウンタウンの説の仕掛けであり、いつもコラムでご紹介する「メリコの法則」の「リ=理解できる」の正体でもあるというわけです。
さて、最後になりますが、我々ビジネスマンは「なぜ感じるのか」「感じるとは何なのか?(「感じる」のメカニズム)」よりももっと考えなければならない重要なことがあります。
それは、「何を感じさせるか?」「どうすればそれを感じてもらえるか?」です。
たとえばロゴで、パンフレットやホームページで、名刺で、何を感じさせるか?
- 信頼
- 親しみ
- 品質の高さ
- コスパの良さ
いろいろとあると思いますが、自社のターゲットに対して何を感じさせると自分のビジネスが成長するのか?どのような表現をすると考える時間を圧倒的に短くして(無拒否性を強くして)、それらを感じてもらえる表現になるのか?
表現そのものを考えることは我々プロが行いますが、これらの重要性に気づけるかどうかはビジネスマンとしての手腕というわけです。
本当はこれについてもまだまだお話できることはあるのですが、そろそろリックスしないといけないのでここらで終わりにしたいと思います(笑)。
今回はここまでです!
津久井
投稿者プロフィール
-
ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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