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ワタクシ、今週の水曜日に46回目のバースデーを迎えました。
創業したのが2006年、30歳のときでした。当時は30歳で起業とか、若い社長という認識をされる時代でした。「その若さで社長とか、すごいですね!」と。
46にもなれば当然若い社長でもなんでもないし、今では30歳で起業なんてザラにいるというか、もっと若くして起業している人がたくさんいます。老いたな。。。このまま老いぼれていくのか。。。
しかしご安心ください。老いても大丈夫。永遠の命と若さがまもなく手に入るのです!(ヤバい宗教みたいですね笑)
それが「メタバース」というヤツですね。仮想空間でみんなデータだけの存在になれば肉体から開放されて永遠に若いまま生きられます!おめでとうございます!!!
「そんなこと起こるわけないやん」と思う方々は、「ムーンショット目標」とかで検索してくださいね。誰がこれを推し進めているのか知ると気持ち悪いですから。
世界は今、急速に悪い方向に向かっていると私は思います。しかし、だからこそ人類にとって歴史的転換点となる可能性も大いに秘めている。良い方向に行く可能性もあるってことですね。将来の歴史の教科書に載るかもしれませんよ。
で、コロコロニュース。
さて、本日のお話です。
みなさん、こちらの看板をご覧になられたことはありますか?
東京に住んでいないともしかしたらわからないかもしれませんが、こちらはある歯科医院さんの看板です。
この看板、神出鬼没で、東京郊外とその近郊(最近だと都心もある様子)のありとあらゆるところにあると言っても過言ではないです。ちなみに撮影場所は自宅の近く、環七という大きな幹線道路沿いです。
おそらくひとつの企業の看板でこれほどたくさん見かけたことがあり記憶に残っているのは、このきぬた歯科の看板くらいしかないかもしれません。
あまりにもこの看板がよく目撃されるため、こんな画像をつくってネット上で笑いをとる人まで出現したほどです。
これは品川駅のコンコースの写真なのですが、通路の両サイドに大量のデジタルサイネージがあります。そのデジタルサイネージがきぬた歯科の広告に侵食されたという設定の加工画像になっています。
そんなきぬた歯科ですが、日経ビジネスプラスにきぬた院長のインタビュー記事が載っていました。これがなかなか読みどころがあり、コラムのテーマになりそうだったのでここでご紹介させていただきます。
まずは日経ビジネスプラスの記事の書き出しを引用します。
たった1つの広告看板であれば、日経ビジネスPLUSで取り上げることはない。ではなぜ取り上げるのか。きぬた歯科の広告がここ数年、じわじわと増殖しているからだ。最近では首都高速から見える位置にも看板を多く出している。近隣地域であれば、まだ分かる。だが、この広告は西八王子からは程遠い品川などの都心、さらには埼玉や神奈川といった県外でも多く見かける。一度目にすると、気になって仕方がない。インターネット全盛ではあるが、アナログな街頭看板を数多く掲げる戦略も謎だ。そんなことを考えていると、もはや運転に集中できない。
当たり前だが広告費用はタダではない。これだけの枚数の広告掲載を行い、維持し続けているとしたら、かなりのコストとなるだろう。厚生労働省の「医療施設動態調査」によると、2021年末時点における全国の歯科医院の数は6万7860。その数は、国内のコンビニの店舗数5万5956(日本フランチャイズチェーン協会公表、22年1月時点)を1万以上も上回る。インプラントという自由診療の領域を主業に据えるとはいえ、歯科医院はコンビニを超える数が全国にひしめく激戦市場でもある。そんな厳しい戦いを強いられる業界において、看板を乱立させる戦略に費用対効果があるとは到底思えなかった。
だが、真実は本人しか分からない。この謎を解明するため、私は西八王子駅前へと向かった――。
きぬた歯科の看板をさまざまな場所で何度も目撃した人は、この記事のライターさんが持つ疑問「看板を乱立させる戦略に費用対効果があるとは到底思えなかった」に共感するのではないでしょうか。
まさに私がそうでした。ただ、これだけ出しているんだから何か仕組みがあるのだろうとは思っていました。節税というか、税金払うくらいなら広告出したれ的なことかなとか。
ちなみに、今回のお話は「看板広告を打ちましょう」という話ではありません。経営を考える上で記事の中にいろいろとヒントがあると感じたためご紹介します。
個人的にヒントとなるなと感じる部分をピックアップしながらお話してみたいと思います。
●NHKの大バッシング
まず、メディアの影響力の恐ろしさについて。
記事によると、2012年1月にNHKが放送した「クローズアップ現代 ー歯科インプラント トラブル急増の理由ー」でインプラントの悪徳業者に関する特集が組まれたそうです。
その翌日からインプラントへのバッシングがトレンドになったらしい(おそらくtwitterのトレンドに入ったという意味だと思われる)。
そして相次ぐ予約のキャンセル。NHKの番組はきぬた歯科のみならずインプラントを得意とする歯科医院の経営に直撃したわけです。
メディアはこういうことをやりがちです。特にNHKに出るときは気をつけろと言われるくらい、NHKは評判が悪い(我々も経験があります)。
ただ、これはNHKだけの現象ではありません。
過去にはフジテレビで納豆が良いと特集が組まれ、翌日スーパーの棚から納豆がなくなったことがあります。
香取慎吾が番組の中で「慎吾ママ」というキャラになってお母さんの代わりにお弁当をつくるコーナーで、「はんぺんはやっぱり紀文よね」と香取慎吾がひとこと言っただけで、翌日から工場をフル稼働させても出荷が追いつかないくらいはんぺんが売れるという現象が何日もつづいたこともあります。会社員時代にクライアントだった紀文食品の仲のよい担当さんから聞いた話です。
なお、これは良いほうにブレたケース。
対して、クローズアップ現代の例のように、悪いほうにいってしまうケースもよくあります。
フジテレビが以前「ECサイトの二重価格問題」というニュースを報じたことがあります。もともと100円で売れるものを200円と値付けし、「今なら100円です!」とさもお得になっているかのように見せる、これが「二重価格」で、「問題だ」と。
報道の内容を見ると、完全にネット通販を落としたいという意図が働いていると感じるものでした。二重価格なんて、ネット通販に限らずリアルの店舗でもいくらでもやっているのに、ネット通販だけが二重価格をやっているような報道がされていたわけです。
ものすごいアンフェアな報道。これをするならリアル店舗の調査もしなければいけないのにそこにはまったく触れられていないわけですから。
邪推ですが、おそらく楽天を叩きたかったのではないかと思います。実際に楽天の出店者が叩かれていたと記憶しています。
当時は新経団連を三木谷さんがつくるとかつくらないとかつくったとか、そんな時期とも重なってたと思う。しかもプロ野球で楽天がリーグ優勝したあたりで、楽天の評価や露出が爆上がりしていたと推測します。
歯医者さんにしろネット通販にしろ、もちろんリアル店舗にしろ、ちゃんとやっている人もいれば悪徳もいます。ただそれだけのことですが、日本人の場合はメディアにちょっと情報操作されると「それがすべて」と思い込んでしまうのは、コ□ナやロシアの問題を見ても明らかです。情報の切り分け、棲み分けができない。
なので、自分の業界や業態がメディアで叩かれる可能性のある業界、業態ではないか、というのは経営者は十分注意しておく必要があります。
ちなみにアメトーークの「家電芸人」というのは、家電メーカーが放送作家を使ってお金を払ってムーブメントを仕掛けたというのは有名です。これで家電がめっちゃ売れたらしいです。
●ネット広告から看板広告に振り切った
きぬた歯科は看板広告に戦略を振り切る前は、ネット広告に予算のほとんどを投下していました。およそ10年前のことのようです。
「クローズアップ現代問題」で予約キャンセルが相次ぐ中、きぬた院長はさまざまな見直しを余儀なくされたようです。特に広告について。
そしてきぬた院長はお客さまにリサーチをしはじめます。
こうして、きぬた歯科の場合はネットよりもはるかに看板のほうがパフォーマンスが高いことが判明します。
そしてすごいのですが「15年分の利益のキャッシュ全てを看板広告に投下した」そうなんです。この判断は自分なら怖くてできないなー。とりあえずネット広告も最低限残して、とか、15年分の利益なんてとんでもない、まずは浮いた広告費の分から〜〜なんていう判断をしてしまうと思う。
そういえば、知り合いにも、銀行から受けた3億くらいの融資を芸能人を使ったプロモーションに全額BETして成功していた人がいました。化粧品通販の会社でした。
その人は通販のマーケティングに絶対の自信を持っていて、お金さえあれば絶対に上手くいくと思っていたと聞いたことがあります。きぬた院長もかなりの勝算があったということなのでしょうか。すごい。。。
●誰が手術するのか ー看板に顔を出した理由ー
きぬた歯科の看板は、きぬた院長の写真が必ず入っています。日経ビジネスプラスの記事を読むまでは、「目立ちたがり屋さんだな〜」と思っていました。
費用対効果の合わなそうな看板広告をこれだけ乱発するということは、おそらくマーケティングに詳しくはない。マーケティングに詳しくないのに顔写真を出すということは、ただの目立ちたがり屋。こんなロジックが頭の中で組み立てられていたからです。
実は、顔写真は非常に有効な場合が多いです。特に無形商材を扱っている場合は、有効というか必須といえるかもしれません。お医者さんや弁護士さん、司法書士さんなどの「先生業」と呼ばれるような仕事の場合ももちろんそうです(私たちのデザイン業もそう)。
なぜなら、売り物はサービス(無形)なわけですから、サービスの受け手としては「いったい誰がサービスをしてくれるのか」が購買を決定する上で非常に重要になるからです。
記事によると、
とあり、決して目立ちたがり屋だから自分の写真を載せたわけではない、そこにはきちんと計算があったということがわかります。きぬた先生、失礼しました(笑)。
なお、顔写真であれば何でもいいわけではありません。たとえば、有料の写真素材からそれっぽいものを購入して使う、などはやめたほうがいいです。
人は見たものから必ず何かしらの印象を受け取ります(「デザインの無拒否性(C)」)。つまり、素材の写真ということは、「リアルではない」ということを直感的に感じてしまうということ。効果はありませんし、逆効果の場合すらあります。
●一瞬で頭に入る広告デザイン
リアルの顔写真を載せたこととも関連しますが、きぬた歯科の広告は看板のデザインもしっかりと計算されたものとなっていました。
とにかく目立つこと、そして情報を極限まで絞り込むこと。そのため、派手な色使いと顔写真、医院名、この3つくらいしか印象としては残りません。せいぜい西八王子駅にあるんだなくらい。
しかし、これは「メリコの法則」にかなっています。
「目立つ」「理解できる」「好感が持てる」の3つを判断基準とするのが「メリコの法則」ですが、もちろん目立ちますし、情報を絞ったことで、まあ理解はしやすい。好感が持てるかは人によると思いますが(汗)。
何より、「看板広告である」という大前提をきちんと考えてデザインしているところがすばらしいというか。当たり前のように感じるかもしれませんが、それよりも「イケてるデザイン」をしようとしてしまう人は広告主にもデザイナーにも意外と多いのが実情です(結果、効果がでない)。
●「2番手は目立たない。チャールズ・リンドバーグのように、初めて飛行に成功した人が目立つ世界。」
そしてやはりというか、きぬた歯科を真似る、つまりパクるところが出てきたようです。それに対するきぬた院長の回答が痛快。
まさにそうです。私たちも「ロゴの無料提案」を考案してから何度パクられたか。「無料提案」どころか、キャッチコピーや入力フォームの質問項目までパクる業者があとをたたず、おそらく創業してから30社くらいはそんなのが出てきたと思います。
当時はものすごくやきもきした気持ちになったり、受注が振るわないとパクリ業者のほうに流れているのではないかと不安になったりしました。ところが、今はほとんど消えました。残っているのは1社くらい。
なぜこんなことが起こるのか。きぬた院長のインタビューを読んで確信に変わりましたが、パクるヤツらは以下の2点のディスアドバンテージがあります。
- 表面しかわからない
- 後追いしかできない
「表面しかわからない」とは、そのウラ側にある戦術や計算、仕組みなどはわからない、「なぜそれをやるか」「なぜそれが成り立つか」まではわからないという意味です。
きぬた歯科がなぜ看板を出すのか、どんなデザインが良いのかはもちろんのこと、おそらくどこに出すのかとか、他にも記事を読んでもわからないウラ側が必ずあるはずです。
そして「後追いしかできない」は、パクるくらいのメンタリティの人たちですから、自分で観察して考えるということができない場合がほとんど。オリジナルを超えることはできないわけで、それができるならはじめからパクったりはしないわけですね。だから「次のパクれるネタ」が出るまで待っているしかないわけです。
もしも今「パクリ被害」で困っている人がいたら、徹底的に考え抜いて自社のサービスや表現をどんどんブラッシュアップしてください。そのうちホンモノとニセモノの差がくっきりと現れますよ。
●「見たくないといったクレームや、看板を外してくれといった電話もあった」
そうでしょうね。そんなクレームがきたらたしかにちょっと傷ついたり凹んだりするでしょう。
しかしお喜びください。ダイレクトレスポンスマーケティングの業界では、クレームが入る広告は優秀と言われています。
クレームが入るということは、それだけ広告がリーチしているということ。見られたり読まれたり。逆にクレームが入らないということは、その広告は存在すら確認されていない可能性があるわけです。存在確認されていなかったら、当然問い合わせにつながるわけがありません。
私は以前、日経新聞のとある部署からの依頼でダイレクトメールやFAXDMの原稿を作成していたことがあります。どれも当時のその部署の中ではかなり高い効果を上げていると評価をいただきました。
中でもFAXDMのときは数字は覚えていませんがかなり問い合わせが来たようです。過去最高だった気がする。そして、クレームの数も過去最高だったそうです。
日経の担当さんには、「クレームがメチャメチャ来ますが、それは広告が反応している証拠だと理解してください」と事前に伝えておいたので特に問題はありませんでしたが。
●看板の年間広告費
さて、「きぬた歯科の広告費」、これがみなさん一番気になるのではないでしょうか。記事に書かれています。
なぜフェラーリで例えたのかはわかりませんが(笑)、金額は1.5億〜2.5億。なお、看板の数は今では300ヶ所を超えるそうです。
それに対して売上はどのくらいあるのでしょう。これも記事によると、
とあります。きぬた歯科さんのホームページを見ると、インプラント1本の費用は松竹梅方式で明確に書かれていて、中間の竹(1本37万円)で計算したとしても11億。単院でこんなに売上がある歯科医院、あるんでしょうか。。。ちなみにインプラント以外の診療の売上も合わせるともっとですね。
それにしても、価格の付け方やホームページのつくりを見ると、やはりきぬた院長はかなり勉強しているという感じです。「目立ちたがり屋」発言は失言でした。。。
●先生ビジネスの限界
さて、歯医者さんやお医者さんなど、いわゆる「人売り」ビジネス(人身売買という意味じゃないですよ笑)には明確な弱点があります。そこはやはりきぬた院長もご理解されているようです。
それは「技術力」にバラツキが出てしまうということです。「オーナー院長がいないと、技術を担保ができない」と記事には書いてあります。きぬた歯科が多店舗(医院)展開の戦略を取らないのは、これに理由があると。
「先生ビジネスの限界」とでもいいましょうか。
私の体験をお話すると、以前自宅の近くにあった歯医者さんが名医すぎてもうそこにしか行きたくないと思っていた時期がありました。
いくと20〜30分お説教されるのですが(笑)、でもとにかくうまい。虫歯なんてほとんど1回か長くても2回くらいで治療を終えてしまうし、かみ合わせも具合が悪くなったことがなく、ほぼ1発か2発であわせてきます。
最新技術に流されるでもなく、治療の本質みたいなことを追求する先生で、医院の利益よりも患者にとって何が最も良い選択かを優先してくれる先生でした。某3年B組の担任の先生も通っているというウワサでしたし、「歯医者が通う歯医者(すばらしいコンセプト)」とも言われていました。
しかし、3年ほど前に通う歯科医院をかえてしまいました。
理由は、先生が高齢で、院を息子さんに引き継ぐ準備をはじめたからです。残念ながらその息子さんには技術はなく、お説教する部分とか、それこそ表面的な部分だけお父さんを真似していたのです。
結果、まずはヨメが通院を離脱、ほどなくして私も知り合いの歯科医院にかえてしまいました。
ちなみに知り合いの歯科医院はもっとひどくて、海外からも患者が来るとか、日本全国インプラントの手術で呼ばれるとか、最新の設備が〜最新の治療が〜とか、「寝落ちするくらい治療が心地良い」とか、さも技術がありそうなことを宣伝していました。
しかし実際には、かみ合わせは合わないし、大きく削りすぎるし、治療は長引くし、詰めた仮歯はだいたい取れるし、近所の別の歯医者で取れた仮歯だけつけてもらえとか平気で言うし、もらった薬でアレルギーが出て呼吸がおかしくなるし(人生初)、何より高いし(3年で100〜150万くらい取られた)、実際に寝落ちしたら助手(先生のヨメ)に叩き起こされるし、先生と助手(先生のヨメ)が治療中私の顔越しに夫婦げんかするし(笑)で、知り合いじゃなければ、そして大きい治療がなければすぐにでも通うのをやめたかったです(新横浜なので遠かったし)。
それにしても患者の治療中に患者越しに夫婦げんかするとかって、もはやドリフとかのコントの設定でありそうですね。
最後はきぬた歯科の話ではなくただの私の愚痴になってしまいましたが(笑)、きぬた院長のインタビューは経営者としてはやはり知っておく、考えておくべき情報が詰まっていると考えます。「歯科医院だから」とか「看板広告はやらないから」とかいう表面的な理由で読まないのは本質的ではないですね。
さて、本日引用した日経ビジネスプラスの記事はこちらになります。
今回はここまでです!
津久井
投稿者プロフィール
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ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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